
鳴海の論破はまだまだ続く
「君はただの厨二病だ!」
鳴海はさらに続ける。
「おめでとう。
厨二病は誰もが一度はかかる通過儀礼。
君が言うところの”普通の家の子”が普通にかかる病気だよ。
君はリアル中二のとき家と親に縛り付けられて厨二病になることも許されなかったんでしょ。
でもそこから自力で脱出して、人前で厨二ムーブできるくらい成長した。
たぶん君は、近しい人に言う『助けて』の言い方も教わってない。
君は私に助けを求めたんだよね。
どうやって言ったらわからないから、わざわざ目の前で過去のトラウマをえぐるという自傷方法で。
わたしが君から逃げずにもう一度向き合ってみようと思ったのは、
かつて私のことを『いい年して身の程も世相もわかってない、昭和の価値観引きずった情弱おばさん』と笑ってくれた君に、
『そっちだって、コミュ力幼児のモラハラDVメンヘラ野郎で、その上今さら厨二病とかまってちゃんWで発症させた地雷系男じゃん』と言い返しておかないと後悔しそうだったから。
そして今までわたしを助けてくれた君を助けたいと思ったから。
…なんて都合のいい展開あるわけないよな。
『君を助けたい』?
逆だよ。
これも前に君が偉そうに言ってたことだよ。
わたしは君が助けを求める適切な場所じゃない。
君が助けを求めるべきなのは、心のケアに関して正しい知識を持った専門家、または同じような境遇の仲間、または境遇は違えど理解しようとしてくれる人生のパートナー。
わたしはどれにも当てはまらない。
さんざん助けてもらって申し訳ないけど、終活してみてわかった。
わたしは息を吸うように自己中な性格なんだよ。
そんなわたしに助けを求めてもうまくいくわけないし、君が助けを求めるたびにわたしは君を傷つけ軽々しいことを言うよ。
そして毎回、普通の家の子のアンタにはわからないってなじられる。
それってなんて地獄?
地獄の手前で自分だけ逃げる。それがわたし。
むしろわたしにとっては君ほど気づかせてくれる人には会えないかもしれない。
君は、いろいろあったかもしれないけど、根はやさしくて信用できる子だと思う。
家にあげてもいいくらいに。
助けられないけど、一緒に地獄に落ちることもできないけど、君が努力して手にしたわたしの信頼は勘違いじゃない。
わかったならここから出てって。」
那須田 「猫が…どきません。」
魯山人(鳴海の猫)が那須田の膝の上で寛いでる。
無敵の猫タトゥー
那須田
「ひとつ聞いてもいいですか。
山口さんが言ったことはだいたい合ってると思います。
ただ、あのとき山口さんは恐怖を感じたはず。
いちど恐怖を感じたら二度となにも言えなくなるはず。
ただひたすら逃げるだけ。
どうやったらそんなに強気でものを言えるのか、向学のために教えてもらえますか。」
鳴海
「これよ。
(腕の猫タトゥーを見せる)
後悔するより向き合おうと思っただけ。」
那須田
「そう思えたのは山口さん個人の強さです。」
鳴海
「強いからじゃなくてバカだからだよ。
君は賢いから逃げた。
どうせ親が先に死ぬんだし、逃げ勝ちすればいい。
それがクール。
もし君もバカでも向き合いたいと思うなら、餞別だ。
(猫タトゥーを渡す)
わいはヘルキャットのタトゥーを入れとる男やぞと思えば、どんな相手を前にしても言葉が出なくなることはない。
猫は、この言いたいことも言えない腐敗した世界に落とされたGod’s childなのだから。」
那須田のとんでもない提案
笑い出す那須田
「やっぱり俺、山口さんのことが好きです。
俺が山口さんに惹かれたのは、山口さんが普通の家の子だからだと思ってました。
山口さんはどれだけ叩いてもすぐに前を向く。
それも俺が考えもしない方向に。
タフで素直でユーモアがあってとにかく明るい。
そういうところを好きになっただけです。」
那須田の告白に戸惑って、茶化す鳴海
「那須田くんみたいな将来有望な若者が、わたしみたいな一回り以上年上のスペックの低い女を好きになるなんて、気の迷いって思った?
君とこじれたのは、”わたしみたいなババアが”みたいな価値観に振り回されたから。
人の目を気にしてた。
無意識のうちに人の目から見た素敵な人生やいい死に方を目指してた。
お母さんにはあんなこと言っといて…
人の目を気にすれば人と比べる。
比べたら妬みがうまれる。
そして妬みは攻撃になって取り返しのつかない絆の断絶を生む。
結果的に孤立する。
だから君がそんな価値観の人間じゃなくて、いいところを好きになってくれたなら否定できないしうれしい。
けど、わたしはこれからひとりで…」
鳴海の話をぶったぎる那須田
「早まらないでください。
いまおれを振ろうとしてるでしょ。
そうやって何も考えずに振れるの、山口さんがかろうじてまだ30代だからですよ。
加齢で人としての価値が下がるというのは古い考えかもしれませんけど、肉体的劣化は避けられません。
今より疲れやすく物忘れもひどく体調も崩しやすくなる。
そういうときに手を貸してくれる若い人間がそばにいたら心強いと思いませんか。
鳴海
「結婚やパートナーが昭和だって言ったのは君でしょ。」
那須田
「でも、ひとりで生きるとしても、人とのつながりは不可欠だってことはわかってますよね。
だからこれは交際の申し込みではなく、投資と考えてください。
今の山口さんにとって、俺とのつながりは面倒なだけの不良債権かもしれません。
でも山口さんが年を取るにつれて価値が高騰していく可能性がある。
山口さんが45歳のとき、俺はまだ20代なんですよ。
俺をこのままホールドしておくのか、今すぐ損切りするのか。
いま選んでください。
俺を長期ホールドしたければそれなりの立場を与えて拘束するべきです。
例えば山口さんの”夫”。
(首をぶんぶん横に振る鳴海)
では現実的に考えて、”彼氏”ですか?
法的権利や責務はないが、しがらみは強まる。
ベストじゃないですか。
俺に”彼氏”という役職を与えるだけなんですよ。」
揺れる鳴海の独白
「名ばかり彼氏なら那須田くんはまだ利用価値があるかもしれない。
このまま切れるのはもったいないかもしれない。」
魯山人が那須田を引き留めているかのように膝の上で寛いでいるので、鳴海も拒絶できず、つきあう流れになる。
職場で那須田を意識し始める鳴海。
「これは巧妙な罠にはまったのでは?」
那須田の独白
「人は自分に与えられた役職に引きずられる。
その役を意識するうちにきっと山口さんの気持ちも変わるはず。
なぜなら俺の気持ちは変わっているから。
山口さんが俺の彼女と思うだけで楽しい。」
令和の嫁vs小姑バトル勃発か
弟サトシの妻から突然のメッセージ。
「お姉さん、彼氏を紹介してくださいよ」
今までつきあいがなかった義理の妹から連絡が来て、しかも彼氏のことを知ってて困惑する鳴海。
先日、自宅売却問題でのやりとりを説明したあと、母が電話で言う。
「女の親族間で揉めるのはたくさん。
ひとつ言えるなら同じ過ちは繰り返すなってこと。」
母(専業主婦)と光子(バリキャリ)。
サトシ妻(専業主婦)と鳴海(バリキャリ)。
構図が完全に一致。
不安になる鳴海
「細かく地雷を踏んできたのかもしれない。
もし、寂しいはずのわたしが、若いイケメンとつきあう展開になったら、「『そんなのないから』ってなるよな。
じゃ、わたしが失恋すればいい?
義理妹の復讐心、ヘイトを清算するぞ。」
家族の食事会
那須田の紹介という名目で食事会。
出席者は、父母、鳴海と那須田、サトシ家族。
前半の話題は、父母の高齢者向け住宅への転居。
鳴海と那須田が父を説得する。
もし要介護になったとして、介護サービスを使いながら今の家になるべく長く住んだ方がお得。
要介護度が上がってから、割高だけど空き部屋の多い民間施設を利用するのがよいのでは。
「なるほど。もう少し様子を見ようか。」
納得する父。
世間代表サトシを論破
サトシ
「なんで那須田さんが、うちの問題に口を出すの?
それに親の介護をなんで他人に任せるの前提なんだよ。
姉ちゃんがいるのに。」
鳴海
「そういうサトシは何かやったの?
(サトシ、妻と子どもを示す)
結婚して孫の顔見せた時点で親孝行は終わってると?
それができないわたしは親の介護くらいするべきと?
よし、わかった。
じゃわたしが行動を改めて、仕事をやめて無事に看取ったとしよう。
その後わたしはどうやって生きていくの?
わたしが復職もままならず、路頭に迷ったら迷惑がかかるのはアンタだけどね。
わたしが介護ストレスで問題起こして、ご近所にひそひそアンタの陰口言われても知らないから。
とにかくわたしに全部やらせるのは悪手中の悪手だからね。」
サトシ
「那須田さんも考えた方がいいんじゃない。
結婚はまだしも、子どもは無理があるんじゃ…。年齢的に」
那須田
「高齢になるほどリスクは増すものだと思います。
そんなのほぼ全生物に言えることです。
それを彼女個人の落ち度のように、大勢の前であげつらうなんてどうかしてる。
謝ってください。」
鳴海
「那須田くん、もういい。ありがとう。」
鳴海、泣きそうな顔で帰途。
丘の上で笑う、バリキャリ時代の光子おばさんの幻影を見る。
鳴海の結論
翌日、早朝の職場で仕事する鳴海と那須田。
鳴海
「昨日はありがとう。
昨日の那須田くんは正直かっこよかった。
君といると少し安心する。
おかしいよね、ついこの間まで君と縁を切らなきゃって思ってたのに。
でも一人で生きるのって思ってた以上に不安でつらいから。
(でもわたしだけじゃない。
人知れずみんな闘ってるのかもしれない。
ひとりでも、ひとりじゃなくても。
みんな少しずつでも前に進もうとしてる。)
ひとりで楽しく生き、楽しく死ねる世界を誰がつくってくれると思ったのか。
わたしはこれからもわたしらしく生きていきたい。
だから別れよう。
わたしはひとりで生きてひとりで死にたい。
じゃ、そういうことで。」
困惑する那須田、鳴海を追いかけまわして理由を聞こうとする。
【The end】
個人の感想
最後までおもしろかった。
最終回も濃厚なセリフ劇でした。
那須田くんの食事会でのセリフ「(高齢で出産リスクが上がることを)個人の落ち度のようにあげつらうなんて~」のくだり、痺れました。
だからこそ、鳴海と光子おばさんの、セリフのない邂逅シーンが際立ってましたね。
鳴海と那須田の関係をふんわりさせたまま終わったのはちょうどよい感じがしました。

