映画『国宝』美しさと残酷さ。最高のエンタメ作品

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あまりに評判がよいので映画『国宝』見てきました。
3時間の長編でしたが、終始ジェットコースターのような急展開。
中弛みがなく、ずっと集中して鑑賞しました。

映画は、任侠の一門に生まれながらも、歌舞伎役者の家に引き取られ、芸の道に人生を捧げた主人公・喜久雄の50年を描いた壮大な一代記。
10代から晩年までを3時間で描きます。

とにかく役者さんの歌舞伎がすごすぎて、言葉がありません。
吉沢亮さん、横浜流星さん、田中泯さんの歌舞伎演技は、頭の先から足の先まで緊張感があって、みごとでした。

のちに国宝役者となる主人公・喜久雄(吉沢亮)。
彼が失った人、犠牲にした人、芸の肥やしになった人を書いてみます。

一人目。実父

喜久雄の父は長崎ヤクザの親分。
喜久雄がまだ10代の頃、宴会中に襲撃に遭い、目の前で父を銃殺されます。
雪の中、倒れる永瀬正敏さん。
その美しい絶望の光景は、一生喜久雄の脳裏に焼き付きます。

二人目。実母

映画ではさらりと説明される程度ですが、幼い頃、実母を原爆症で亡くしています。
宮澤エマ演じる妖艶な女性は継母。
その後、実父も殺されてしまうわけです。
天涯孤独になった喜久雄。

三人目。恋人、春江

長崎の少年時代からの恋人で、一緒に背中の入れ墨を入れた仲。
大人になってから大阪でホステスとして働く春江を高畑充希さんが演じています。
役者としてそこそこ有名になった喜久雄はプロポーズするのですが、春江は断ります。

「私が喜久雄のいちばんの贔屓さんになるから」と。

このときの春江の心境は想像するしかありません。

その後いろいろあって、春江は、喜久雄の親友であり戦友、お師匠の直系息子、俊介(横浜流星)と駆け落ちします。
喜久雄の心情やいかに。

四人目。師匠の半二郎

喜久雄は父の仇を取ろうとして殺人未遂を起こし、渡辺謙さん演じる歌舞伎役者・半二郎の家に部屋子として引き取られます。
半二郎の実息子・同い年の俊介とともに厳しい稽古に耐え、ついに、半二郎の代役として、喜久雄が選ばれ、みごとその大役を果たします。

俊介の母(寺島しのぶ)には露骨に煙たがられていましたし、喜久雄は常に俊介に遠慮しながら、俊介を立てて生きてきたはず。
このとき師匠から俊介ではなく自分が認められて、自分が俊介と同列になって、半二郎を実の父親のように思ったのではないでしょうか。

その後、半二郎は糖尿病になり、足腰が弱くなり視力を失います。
半二郎が舞台上で吐血してしまい、喜久雄に介抱されながら口にしたのは

「しゅんぼう…」


実の息子の名前でした。

このとき喜久雄は絶望の表情を浮かべます。

半二郎が亡くなった後は、後ろ盾を失い、冷遇される喜久雄。
出自や隠し子に関するスキャンダルも出てしまい、仕事がなくなります。

五人目。ライバルで盟友、俊介

芸の喜久雄と、血筋の俊介。映画を通じてふたりの関係がずっと描かれます。
子どもの頃から厳しい稽古に耐えてきた二人。
俊介は父の代役をつとめる喜久雄のみごとな演技を見て、自分の才能の無さに絶望し、春江と駆け落ちします。

このとき喜久雄は何を思ったでしょうか。
跡継ぎ息子が消えてラッキーと思う気持ちも少しはあったかもしれませんが、喪失の方が大きかったと思います。

喜久雄と俊介の関係

その後何年か修行をして芸を磨き、歌舞伎界でまた活躍するようになった俊介。
親の七光りは強い。
ブランクがあっても世間はあたたかく迎え入れるのです。
俊介には戻れる家もあります。

その頃ズタボロだった喜久雄は、巡業先の食堂のテレビ番組で俊介の歌舞伎復帰を知ります。
俊介と自分は同じように育ったのにこんなにも違う。
絶望する喜久雄。

あるきっかけで喜久雄も歌舞伎に戻り、俊介とまたふたりで大舞台に立つようになります。
しかし良い時は続きません。
俊介も父と同じく糖尿病になり片足切断。
もう一方の足も壊死が始まっていました。

最後にふたりが演じた「曽根崎心中」はクライマックスです。

芸道の残酷さ

それ以外にも、祇園の芸者さん藤駒(見上愛)とその娘(滝内公美)、大物歌舞伎役者の娘(森七菜)は喜久雄に出会ったことで普通の幸せは望めなかったかもしれません。
すべては喜久雄の芸のための生贄。
芸道の残酷さ、美しさ、ともに描くことで上質なエンタメ作品に仕上がっています。

田中泯さんの怪物感

一番心に残ったのは国宝歌舞伎役者・万菊を演じた田中泯さんの怪物感。
出番はそれほど多くないのに強烈な印象を残します。

はじめて楽屋で喜久雄少年に会って手招きするシーン。
手の動きから顔面、声色まで妖怪でした。

「その美しいお顔は邪魔も邪魔

いつかそのお顔に自分が食われちまいますからね」

喜久雄少年の人生を変えた、万菊の「鷺娘」の舞、不気味だけど美しい幽玄の世界そのもの。

最晩年の生き方も常人離れしているし、妄想を掻き立てる役柄でした。

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